| 5.病人なのに |
| 「少し頭冷やしてこよう…」 ハボックはそう呟いて椅子から立ち上がる。ヨロヨロと寝室から出たハボックは閉めた扉に寄りかかって深いため息をついた。 「するんじゃなかった……」 必死に押さえ込んでいた想いを乱されて、相手は病人なのだから仕方ないと思いはしても、心の何処かで恨めしく思っていたらしい。単純に好きな相手にキスしたいというだけでなく、男の自分に唇を奪われたなんて知ればきっとプライドを傷つけられる事だろうと、どこか仕返しじみた気持ちがあったのをハボックは否定出来なかった。だが、その結果は己ばかりが苦しいだけで、ハボックはため息をついて扉から背を離す。階下におりてキッチンへ行くと蛇口を捻り、流れる水に口をつけて飲んだ。 「なにやってんだろう、オレ」 今までだって上手に隠してきたのだ。これからもそうすればいいだけの事ではないか。 「それなのにあんな事しちゃうなんて」 口にすればロイの唇の感触が俄に蘇って、ハボックは意味のない言葉を喚きながらガシガシと髪をかき混ぜる。ハボックは己の感情の起伏の激しさについて行けず、再びハアアとため息をついた。 「くそ、しっかりしろよ」 そう己を叱咤したものの、ハボックが寝室に戻ったのはそれから三十分も経ってからだった。 「大佐……?」 そっと扉を押し開き小さな声で呼んでみる。返ってくるのは苦しげな息遣いばかりで、ベッドに近寄ったハボックは辛そうなロイの様子に眉を顰めた。 「ひでぇ汗……」 ハボックはタオルを絞ってロイの顔を拭いてやる。熱で赤らんだ顔と苦しげな息を吐き出す薄く開いた唇を見れば、ムラムラと込み上げる欲求にハボックはギュッとめを瞑った。 「駄目だっての」 必死にそう言い聞かせようとしたハボックは、だが気がつけば浅い呼吸を繰り返す唇に己のそれを寄せていた。 「大佐……」 小さな声でロイを呼ぶ。 「起きないとキスしちゃいますよ……?」 そう言ったところで、熱に浮かされたロイに届くはずもなく、ハボックは熱い呼吸を飲み込むようにロイの唇を塞いだ。 「ん……」 クチュ、と互いの呼吸を混ぜ合わせるように唇を啄む。ほんの数秒、ロイの唇を自分の自由にしてハボックは唇を離すと、ロイの顔をじっと見つめる。無理矢理視線をロイの顔から引き剥がして、ハボックはベッドを背に床に座り込んだ。 「病人なのに……オレってサイテー……」 自己嫌悪の滲む声でそう囁いて、ハボックは抱え込んだ膝に顔を埋めてため息を漏らした。 2010/12/09 |