| 4.口移し |
| 「な……なんで」 ハボックは再び眠りの中に戻ってしまったロイの顔を呆然として見つめる。欲しい答えが返ってこないと判ると、肺の中の空気を全部吐き出すようなため息をついて椅子に深々と沈み込んだ。 「ひでぇ……」 ハボックはロイの唇が触れた指をもう一方の手で握り締めて呟く。ドキドキと早鐘のように高鳴ってしまった心臓は、まだ当分治まりそうになかった。 ずっと胸の奥底に押し込めてきたものの、ハボックはずっとロイの事が好きだった。揺るぎない意志を秘めた強い光を宿す黒曜石の瞳が、どれほど自分が傷つこうとも歩みを止めない強い姿が、それでいて決して失くしてはいけない優しさを奥底に持ち続けている心が、何よりも誰よりもずっとずっと好きだったのだ。男の自分が同性であるロイを好きだなんてどうかしていると悩んだこともあったが、この気持ちに嘘偽りがないのも事実だった。男に興味のないロイに打ち明ける事は考えなかったが、それならせめて彼の役にたちたいと頑張ってきたと言うのに。 「アンタ、ひでぇ……」 必死に押し留めてきた気持ちを波立てるなんて酷すぎる。ロイが触れた指先は彼が操る焔で焼かれたように熱く熱を帯びてハボックを苦しめた。 「……あ、薬」 せっかく目を覚ましたのにまた薬を飲ませ損ねてしまった事に気づく。ハボックは一つため息をつくと握り締めていた手をロイに伸ばした。 「大佐…悪いんスけどちょっと起きて下さい」 可哀想ではあるがやはり無理に起こしてでも薬を飲ませた方がいいだろうと、ハボックはロイの体を揺する。うっすらと目を開けたのを見て、ハボックはロイに言った。 「せっかく寝てんのに悪いんスけど、薬飲んだ方がいいっスから」 ハボックは胸の内の波立つ想いを隠してそう言う。ベッドサイドのテーブルから薬の瓶を取り上げ三錠出して、ロイの肩に手を回した。回した手でロイの体を少し起こして錠剤を口の中に押し込む。水を飲ませようと唇にコップを押し当てたが、半分眠りに入っているロイは飲んでくれはしなかった。 「大佐、水飲んで」 耳元で言ってもロイは目覚めない。薬を押し込んでしまったのは拙かったと思っても今更取り出す訳にいかず、ハボックは途方に暮れてロイを見た。 「……仕方なしにするんスからね」 少ししてハボックはそう呟く。 「アンタが起きないから仕方なしにするんスからね」 言い訳のように呟いてハボックはグラスに口をつけた。水を口に含んでロイの顔を見つめる。そっと唇を合わせて含んだ水をロイの口に流し込んだ。僅かに唇を離し、ロイがコクリと水を飲んだのを確かめる。もう二回ほど繰り返して飲ませると、グラスをテーブルに置きロイの体をベッドに戻した。 「こっちが熱出そう……」 両手で顔を覆ってハボックは呟く。ドキドキと心臓は高鳴るばかりで、ハボックにはどうすることも出来なかった。 2010/12/08 |