6.欲しいのは


「ハボック!」
 ロイは交差点の向こうの背の高い姿に向かって叫ぶ。だが、一瞬顔を上げたものの再び顔をマフラーに埋めて歩いていってしまうハボックに、ロイは思い切り舌打ちした。
「なんで気づかないんだッ、あの馬鹿ッ!」
 約束をしているのだからそれらしい声が聞こえたらもっとちゃんと探したっていいじゃないか。ロイは内心ハボックをそう罵りながら信号が変わるのを待つ。漸く青に変わったと思った瞬間には、ロイは道路に飛び出していた。その時、既に信号が変わりそうな所へ強引に突っ切ろうとした車が交差点の中に飛び込んでくる。
「…ッッ?!馬鹿者ッ!!」
 すぐ鼻先を通り過ぎる車に向かってロイは怒鳴った。車は幸いにも他の歩行者を引っ掛けることなく走り去る。ロイは怒りでカッカとしながら交差点を渡ったが、その頃にはハボックの姿は見あたらなかった。
「くそっ、どこに行った?」
 車が通り過ぎたせいでハボックを見失ってしまった。ロイはキョロキョロと辺りを見回しながら足早に歩く。頭の中にさっきチラリと見たハボックの姿が浮かんで、ロイは眉を顰めた。
(寒そうだったな……)
 大きな体を丸め、両手をポケットに突っ込みマフラーに顔を埋めたその姿は本当に寒そうだった。
(二時間以上も待たせたのか)
 きっと体は芯まで冷え切っているのだろう。そう思えばロイの中で後悔と申し訳ない気持ちが一層強くなる。ロイは行き交う人々を突き飛ばすようにしてハボックの姿を探した。
 いつの頃からだったろう、自分の中でハボックという存在がこれほど大きくなったのは。気がつけばハボックが欲しくて欲しくて堪らなくて、漸く手に入れればもっともっと欲しくなり己の欲望の強さに呆れるしかなかった。それでも素直に欲しいと言える性格ではなかったから、いつでも気のないフリをした。今日だって『会いたい』と言われて嬉しかったのに素直にそれを表せなかった。きっとハボックは自分が強引に約束を取り決めたと思っているだろう。
「ハボック」
 会いたい。
 会いたくてたまらない。
 ロイはハボックの姿を探して夜の街を走りつづけた。


2010/11/30