| 1.夕方6時過ぎ |
| (そろそろ行くかな) ハボックは壁の時計を見てそう思う。時刻は六時を少し回ったところだ。ロイとの約束は七時に駅前の中央広場だったから、のんびり着替えて行ったとしても少し早い位だが、常日頃上官との約束には十五分前に着くようにしていたハボックとしては個人的につきあうようになった今でもそれは変わらなかった。 ハボックは形だけ広げてあった書類を抽斗にしまうと煙草を灰皿に押しつける。ガタガタと椅子を引いて立ち上がれば、向かいの席のブレダが顔を上げた。 「もうしまいか?」 「ああ、ブレダはまだ?」 「これ書いたらな」 ブレダは言って書類をひらひらと振ってみせる。 「そか。んじゃ、お先に」 「おお、お疲れ」 ハボックはブレダに片手を上げて司令室を後にした。普段は着替えず帰ってしまうが今日はロッカールームで持ってきた私服に着替える。ダウンジャケットの前は閉じずにマフラーを襟元に巻いてハボックは外へと出た。 ここひと月ほどハボックもロイも多忙を極めていた。立て続けに起きた事件が漸く片づけばその事後処理に追われる。事件の間にたまった書類や後回しにされた会議、通常の演習もノルマがこなせず休んでいる暇などなかった。こう忙しいと同じ司令室にいても顔を合わせるのは稀だった。サインを貰おうと仕事の合間に執務室を覗いてもまず椅子は空っぽで、仕方なしに机の上に置いて演習に出かければ戻ってくると本人はおらずにサインをされた書類だけが戻ってきている。互いに出たり入ったりを繰り返しているとは言え、よくここまですれ違えるものだと感心出来るほどのタイミングの悪さだった。 ハボックはポケットに手を突っ込み背の高い体を少し丸めて歩く。最近では日が沈むのも早くなり、もう辺りはすっかり暗くなっていた。暗くなった街並みはショーウィンドウから零れる光や看板を飾るイルミネーションで色とりどりの灯りで照らされている。家路を急ぐ人々や連れだって楽しそうに歩く人々に混じって歩きながらハボックはため息をついた。 今日の約束はハボックから言い出したものだ。仕事が終わらないかもと渋るロイを説き伏せて強引に約束を決めてしまったのは、そろそろハボック自身が限界だったからだ。 (だって、もう何日まともに口利いてねぇと思ってんのさ) ハボックが小隊と動く事が多いため、このひと月の護衛は殆どホークアイが担当していた。そのせいで余計に一緒にいる機会を逸してしまい、ハボックとしては“ロイが足りない”という事態に陥ってしまっているのだった。 かなりゆっくり歩いたがそれでも約束の時間よりは随分と前についてしまう。ハボックは駅前の時計台の下に立つと懐から煙草を取り出して咥えた。 (大佐、会議終わったかな) ハボックが司令室を出てくるときにはロイはまだ戻ってきていなかった。終業時間を過ぎてまで延々と会議をやっていたい人間はいないから、余程のことがない限りさほど遅くならずに終わるだろう。 (早く来ないかな……) 早く来てこの乾きを癒して欲しい。 ハボックは星の瞬く空を見上げてロイが来るのを待っていたのだった。 2010/11/25 |